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1: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)16:49:39.03 ID:wzot/hv40

大学の帰り、散歩がてらに通った路地の向こうに、妙に開けた場所があった。
地元なのにこんな場所は見たことがなく、まるで異世界のように感じた。

見通しのいい道路と目の前に1つ高くそびえる銀行。
潰れて長い時間が経っているのか、銀行の看板が剥がれ、何銀行か読めなくなっている。

廃墟やゴーストタウン、心霊スポットなど、
人が消えた建造物や街や特殊な雰囲気を持つ場所を
前からネットでちょくちょく見ていて、そういうものには結構興味を持っていた。

突然の出来事に驚きつつも心は浮き立ち、
どこから入れるかを探してみた。

 



9: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)16:52:33.18 ID:wzot/hv40

まずはダメもとで正面玄関のドアに手をかけ力を入れてみる。
鍵が引っ掛かってガンッガンッと反発されることを想像していたが、
予想に反して、力を込めると重たいながらもきちんと開いた。

中に目を向けると、真新しい蛍光灯の明かりが屋内を照らし、
人の話し声が賑やかに響いている。

外から見たらあからさまに潰れて打ち捨てられた銀行だったのに、
中に入ると、まるでそれが嘘のように活発に人が行き交っている。




14: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)16:55:15.85 ID:wzot/hv40

行員「初めての方ですか、こちらへどうぞ」 

男「え、あ、はい」 

見た目が古いだけで、どこにでもあるただの営業している銀行なら、 
このまま家に帰ろうかと一瞬思ったが、 
行員のお姉さんに呼び出されてしまったし、 
気になることもあるので通された席に座った。 

 



15: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)16:56:59.25 ID:wzot/hv40

男「あの」 

行員「はい?」 

男「これはどこの系列の銀行なんですか?表の看板が剥げてて読めなかったんですが」 

行員「はい。当行は時間の銀行でございます」 

男「時間の銀行?」 

男「初めて聞きましたけど」 

行員「日本ではこちらが第一号店となりますので、ご存知でない方も多いんです」 

男「はあ」 

散歩で迷い込んだ場所が時間銀行。 
友達に言っても信じてくれないだろう。 
自分でもまだ信じられないし。 

 



16: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)16:58:44.04 ID:wzot/hv40

男「それってどういう取引をするんですか?」 

行員「当行は時間銀行ですから、時間のお預入れ、お引き出しはもちろん、 
   借り入れや、売却・購入などもできます」 

行員「もしよろしければこの場で口座をお作りすることもできますが」 

最近時間のやりくりが上手く行かなくて、バイトや予定に息詰まる事も多いから、 
余った時間を貯めて足りない時にそれを使えれば、有効活用できるだろう。 

男「・・・じゃあ、お願いします」 

行員「かしこまりました。少々お待ちください」 

 



18: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:00:33.29 ID:wzot/hv40

行員「ありがとうございましたー」 

印鑑や身分証明になるようなものは持ち合わせていなかったのに 
すんなりと口座開設が出来てしまった。 

銀行から出て少し歩いたところで振り返ってみると、 
やはり朽ち果てた廃墟のような表向きだ。 

さっきのは白昼夢か?と思いながらも、 
たった今受け取った通帳を見つめる。 
夢なら夢で手元にはないだろうし、現実なら現実でこんなオカルトはあり得ない。 
半信半疑の、どうもしっくりこない感情を抱いたまま、 
入ってきた路地を戻り、家へと向かった。 

 



19: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:02:22.26 ID:wzot/hv40

3日後。 

月曜日の朝はいつも憂鬱だ。 
ずっと休日であれば大学に行かなくてもいいのにと思う。 

ぼさぼさの頭で鏡を見ると思わずため息が出てしまう。 
朝食を済ませると、適当に服を合わせ、 
教科書の入ったカバンを持ち、いつもの駅に向かった。 

 



22: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:05:28.37 ID:wzot/hv40

朝のラッシュ時は当然ながら結構混む。 
東京の都心の方はこれよりもっとすごいらしいが、 
こっちの電車も十分すぎるほどに混む。 
電車のドアが開いた瞬間に、ドア横の手すりのあたりのスペースに狙いをつけ、 
人が降りきったわずかな隙にそこへと滑り込む。 

高校時代もこうして電車に乗っていたが、 
大学生となった今、高校の制服を着た生徒を見ると少しノスタルジックな気分になる。 

男「・・・。」 

 



23: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:07:09.52 ID:wzot/hv40

>>20 
支援トンクス 

 



24: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:08:12.45 ID:wzot/hv40

信号でも踏切でもないところで、急に電車が止まった。 
わずかの後、次の駅で線路内に人が入ったとアナウンスが入った。 

次々と携帯を取り出しどこかへ連絡を取る人々。 
止まった場所が駅のホームであれば、電車を降りてバスに乗り換えることもできたが、 
駅と駅のちょうど真ん中のこの場所ではどうすることもできない。 

 



27: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:10:15.19 ID:wzot/hv40

しばらく待っていても電車は動く気配がない。 
車内は外の太陽に照らされどんどんと蒸し暑くなり、 
あっちやこっちで窓を開けたり、手で汗のにじむ顔をあおぎだしている。 

(これだと大学には間に合わないだろうなあ・・・) 

 



30: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:11:58.77 ID:wzot/hv40

そう思った瞬間、暑さにやられたのか、めまいを起こした。 
15秒ほどするとめまいは治ったが、周囲にいた人の反応が少しおかしい。 

会社員「・・・すか!?大丈夫ですか!?」 

男「・・・あ・・・すいません、・・・大丈夫です」 

会社員「そうですか・・・?救急車呼びますか?」 

男「いや、そこまでじゃないので大丈夫ですよ」 


車掌「まもなく発車します。お立ちの方は近くの手すりにおつかまりください」 

 



31: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:13:09.62 ID:wzot/hv40

少し立ちくらみを起こしただけなのに異常に心配された。 
不思議に思っていると、どこからともなく声が響く。 

「・・・様、只今口座に3分19秒お預かりいたしました」 

それに驚き周囲を見回すが、それらしい人は見えない。 
少し考え、昨日通帳をこのカバンに入れてそのままにしていたことを思い出し、 
カバンから通帳を取り出し、確認してみた。 

昨日までは残高が0だったのに、 
ついさっきので3分19秒貯まっている。 

時間が、本当に貯まっている。 

 



35: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:16:13.05 ID:wzot/hv40

大学の最寄り駅までまでの電車の車中、 
しばしば周りの人に心配されていたが、 
その人たちにどう対応すればいいか困った。 
何が起こったか自分でもわからなかったから。 

大学の最寄り駅に着くと、改札を素早く駆け抜け、全力で走って向かったが、 
結局大学は遅刻してしまい、1限は途中から入った。 
サークルもなく、午前で授業が終わったので、朝の出来事を確かめにあの銀行へと向かった。 

 



38: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:17:39.70 ID:wzot/hv40

>>34 
げんふうけいさんいいですよね。 
私はげんふうけいさんではありませんので先にお知らせしておきます。 

 



39: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:19:11.02 ID:wzot/hv40

行員「いらっしゃいませ」 

男「あの・・・」 

男「・・・ということがあったんですが」 

行員「そうですか・・・口座開設の際に詳細設定をしなかったので、おそらくそのせいかと」 

男「それってどういうことですか?」 

要約すると、本人にとって無駄になると思われる時間があれば、 
それをすべて貯蓄に回してしまうということらしい。 

 



41: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:20:12.84 ID:wzot/hv40

また、貯蓄の特性上、貯蓄している間の時間は活動が一時停止するとこのこと。 
それで朝のラッシュ時に電車が止まって動き出すまでの3分間意識を失い、 
周囲の人にいたく心配されたということになる。 

男「プラン変更って出来ませんか?自分のタイミングでやりたいので」 

行員「はい、かしこまりました」 

 



44: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:21:38.24 ID:wzot/hv40

無駄な時間を自動で感知して手当たり次第に貯蓄するプランから、 
自分の心の中で念じて、自分のタイミングで貯蓄出来るプランにしてもらった。 


家に戻り、きちんとその設定になったか、時計を確認してから実験をしてみる。 

(今から1分間、貯蓄) 

一瞬のめまいが解けてすぐ時計を確認すると、時計の針はちょうど1分進んでいた。 

「・・・様、只今口座に1分00秒お預かりいたしました」 

ちゃんと出来たようだ。 

 



50: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:24:07.83 ID:wzot/hv40

時間銀行では、具体的な注文から抽象的な注文まで、 
個人のニーズに応じて多様な選び方ができるようで、 
「今から3分」と言えばきっちり3分貯まるし、 
「この後のバラエティ番組が始まるまで」と言えば、 
それまでの時間の長短を問わずにきちんと貯蓄してくれる。 

しかし、これを使うためには、人の視線がないところ、車などの脅威がないところで使う必要がある。 
思わぬ事故や面倒事を避けるためだ。 

 



53: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:25:45.66 ID:wzot/hv40

貯蓄している間の活動は止まっているため、一種の仮死状態となる。 
その間は空腹にもならないし便意も催さない。 
寿命も取らないので、もし100年貯蓄しても空腹便意加齢などもほぼなく、 
理論上そのままその姿で100年後に行けるのだ。 
しかし、実際にやってる人はおそらくいないかもしれない。 

 



54: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:27:03.77 ID:wzot/hv40

教授「・・・であるからして、ここで使う計算式は・・・」 

(この講義だるいなあ・・・この講義が終わるまでの時間を、貯蓄) 

男「・・・。」 

キーンコーンカーンコーン 

教授「ということで今日の講義はこれまで。しっかり復習するように」 


(電車遅いな・・・電車が来るまでの時間を、貯蓄) 

カタンカタンカタンカッタンカッタンカッタン フィープシュー・・・ 


(コーヒーが来るまでの時間を、貯蓄) 

店員「お待たせしましたーアイスコーヒーになりまーす」 

 



58: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:28:36.95 ID:wzot/hv40

大学 

ザワザワ 

幼馴染男「なあ、お前何ニヤニヤしてんの?」 

男「え?」 

幼「通帳見ながらニヤニヤしてたら変人にみられるよ?」 

男「そうか?」 

幼「つかお前元々変人だよな、時々旅行してんだろw」 

男「旅行?」 

幼「お前、1日に何度か魂がどっか行ってんだよなー。話しかけても全く反応ないし」 

男「あー・・・」 

 



59: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:29:30.38 ID:wzot/hv40

幼「まあ俺らは慣れたけどな!」 

男「ははは・・・ごめんごめん」 

幼「でもよ、講義中に旅行するのはやめとけよ、差されてるのに無視とかないからw」 

男「マジかよ」 

幼「ああマジだよw 一応授業は受けとけ、何かあってからじゃまずいしなw」 

男「了解」 

 



61: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:31:44.87 ID:wzot/hv40

>>55 
「寿命を買い取ってもらった。1年につき、1万円で。」は作者さんは「げんふうけい」さんです。
私はげんふうけいさんではありません。また、これが初めてのストーリースレです。 

 



62: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:32:47.23 ID:wzot/hv40

コツコツと貯蓄を重ね続け、通帳は2冊目に入り、桁数もなかなかの物になった。 
2冊目に入るとこれまでは貯蓄のみだったのが引き出しが可能になった。 

貯蓄は自分の動きが止まるのに対して、引き出しは自分以外の動きが止まる。 
これまでの貯蓄同様、具体的にも抽象的にも注文できるのだ。 

 



63: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:34:09.99 ID:wzot/hv40

通帳が3冊目・4冊目に入るとさらに特典がつき、実行可能な取引が増える。 
時間銀行は、そこに人間さえいれば世界中のどんな場所にでも開ける特殊な銀行であるが、 
時間を操作出来るということは人間の犯罪欲にもつながるため、 
信頼度を測るために最初からフルオプションで提供できないのだ。 

 



67: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:35:53.50 ID:wzot/hv40

世界各地を見ても、大通りや目立つ場所にはなく、 
人通りの少ない裏通りや路地の奥などにあることが多いらしい。 

そして、傍から見て時間銀行であると一目で分かられないようになっている。 

 



68: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:36:31.95 ID:wzot/hv40

幼「そういやレポートって今日だっけ」 

男「え、うそ」 

幼「前の講義で言ってたろ、来週レポート集めるって」 

男「マジかよ・・・」 

幼「どうせ旅行してたんだろまたww」 

男「量はどれくらい?」 

幼「A4用紙5枚って言ってたっけな」 

男「そうか、・・・ちょっと図書館行ってくるわ」 

 



70: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:37:12.04 ID:wzot/hv40

(レポート完成までにかかる時間を、引き出し) 

めまいが晴れ、時計を注視する。 
どうやら針は動いていない。まわりで本を読んでいる人の動きも止まっている。 
きちんと引き出しが行われたようだ。 

今まで事あるごとに時間を貯めてきていたが、そこまで長い時間は貯まっていないだろう。 
もってくれている間に、急いでレポートを仕上げよう。 

 



71: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:38:11.05 ID:wzot/hv40

男「ふぅー・・・」 

幼「おうおかえり」 

男「あぁただいま」 

幼「結局レポートどうすんだよ」 

男「あぁ・・・カバンの奥に、前に作ったやつ入れてたの忘れてたわ」 

幼「なんだよそれw まぁよかったな、結構単位に響くらしいからこれ」 

男「あ、そうなんだ」 

結構時間は使ってしまったが、なんとかなったみたいだ。 
使った分をまた貯めなければいけないな。 
結構貯蓄効率はいいが、またこんなことが起こると厄介だから講義中の貯蓄はやめておこう。 

 



74: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:39:34.95 ID:wzot/hv40

大学の行き帰りの電車の中で合計1時間半は貯まる。 
注文した品の待機で数分。 
好きなテレビ待ちで数十分~2、3時間。 

最低でも2時間は毎日貯まるようだ。 

一気にガツンと貯まるわけじゃなくて小刻みに貯まるから、 
通帳が3冊目に行くのはそう遅くなかった。 

 



75: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:40:32.50 ID:wzot/hv40

行員「こちらが新しい通帳になります」 

男「ありがとうございます」 

行員「今日以降、貯蓄・引き出しと借り入れができるようになりましたのでお確かめください」

行員「借り入れ時の利子は1日複利の16%となります。5日でおよそ倍になりますので慎重にお使いください」 

男「わかりました」 

 



76: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:41:32.96 ID:wzot/hv40

借り入れをすると、一時間分借りたら5日間そのままにしてた場合、 
合計約二時間分の時間を返さなければいけない。 
一日で返したとしても利子がついて、10分余計に取られる。 
利子に取られる時間で、他にどれだけのことができるだろうか。 
借り入れるくらいなら、日々寸暇を惜しんで切り詰めて貯蓄していった方が何倍もましだと考えた。 

 



77: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:42:29.08 ID:wzot/hv40

・・・この頃から徐々に時間感覚がずれてきた。 
暇でも普通に過ごせば24時間だが、 
いらない時間をすべて貯蓄に回すと20時間を切る日も出てくる。 
貯蓄に回した時間の間は空腹も進まないし疲労もたまらないから、 
夜の12時になってもあまり眠くならない。 
睡眠周期がずれ、朝の二度寝で少し引き出すことも増えてきたくらいだ。 

 



80: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:43:44.15 ID:wzot/hv40

土日は遊びに行くことはせず、 
足りなくなった睡眠を補い、他の余った時間は貯蓄に回した。 
最近ゲームや趣味に費やす時間も、心なしか削ってしまっているような気がする。 

飛ばした時間分の疲労は蓄積されないため、 
もし朝から夜まで全部貯めたら、眠くもないのに就寝の時間となってしまう。 
今はそこまで極端なことはしていないが、最近の生活サイクルはそれにどんどん近付いてしまっている。 

 



82: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:44:59.77 ID:wzot/hv40

幼「大丈夫かおい」 

男「ん?」 

幼「最近お前元気ねーぞ」 

男「あぁ」 

幼「ちゃんと飯食ってるか?睡眠は足りてんのか?」 

男「気にしなくていいよ、大丈夫だから・・・」 

 



85: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:46:27.26 ID:wzot/hv40

度重なる不定期の貯蓄と引き出しで体内時計が狂って、 
いよいよ影響が全身に現れたようだ。 

表情は死人さながら、食事風景は火が消えたように悲しそうに、 
後姿は生きる希望を失っているかのように人々の目に映っている。 

 



87: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:47:26.28 ID:wzot/hv40

そろそろ本当にダメになってしまう前に、 
今までに貯めた時間でしっかりと休養を取ろう。 
これまで隙さえ見つければ貯めてきたから、 
おそらく十分すぎるほどに時間は残っている。 
ここできちんと休んでおけばきっと今よりはよくなるはずだ。 

(疲労が抜けきるまでに必要な休養の時間を、引き出し) 

念じると同時にベッドに倒れこむと、そのまま眠りについた。 

 



89: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:49:06.50 ID:wzot/hv40

――しばらくして目が覚めると、血の流れや体の重みで、 
直感的にかなり長い間寝ていたと感じた。 

「・・・様、只今口座から23時間31分06秒引き出しが完了しました」 

23時間31分。ほぼ丸一日寝てしまっていたらしい。 
しかし、体は結構軽くなった。 
ずいぶん長いこと寝ていたせいか、喉がすっかりカラカラになっていた。 
台所でコップ一杯の水を飲み干し、鏡で自分の顔を見てみた。 
寝る前と比べて、随分クマが改善されている。 

 



90: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:49:43.96 ID:wzot/hv40

>>88 
懐かしいですね、大好きでした。またやってほしいです。 

 



91: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:50:51.26 ID:wzot/hv40

さすがに最近は神経質になりすぎていた。 
何かって言うとすぐ貯蓄に回そうとして、常に気が立っていた。 
ちょっとゆとりをもって生活しよう、そう決めた。 

 



92: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:51:28.72 ID:wzot/hv40

最初は貯蓄に慣れていたせいで体内時計は狂い、体力も落ちていたが、 
徐々に徐々に元通りの生活に戻していくと、体調も体内時計も整っていった。 

自分から貯蓄する回数はどんどん減り、引き出すことも少なくなっていった。 

そんな矢先、貯蓄していた時間の利息が付き、通帳がいっぱいとなり、 
次の新しい通帳に変えることとなった。 

 



93: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:52:19.90 ID:wzot/hv40

行員「通帳が4冊目となりましたので、今日から売却が可能となりました」 

男「売却?」 

行員「はい。あなたの余った時間を売却出来ます。」 

男「なるほど」 

行員「換金レートの詳細はこちらに記してありますので、必ず目を通しておいてください」 

男「わかりました」 

 



94: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:53:01.12 ID:wzot/hv40

家に帰り、早速売却を試そうとさっき銀行でもらった紙を手に取った。 

・換金はこれまでの貯蓄・引き出し・借り入れの際に使用した手段と同等の方法で可能。 
・1分未満の換金は原則として応じない。最低1分単位での換金とする。 
・換金の際は、分未満の秒数はそのまま口座に残り、換金されないものとする。 

・一度の換金のレートは下記の通り。 
―分単位― 
~10分以内の換金は1分あたり1円。 
~60分以内の換金は1分あたり3円。 
―時間単位― 
~3時間以内の換金は1時間あたり300円。 
~10時間以内の換金は1時間あたり500円。 
~23時間以内の換金は1時間あたり700円。 
それ以上は1日あたり2万円とする。(※この計算式は一括払いに適用される。分割・ローンは適用外) 

趣旨としてはこういうことらしい。 

 



96: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:54:24.06 ID:wzot/hv40

男「1日丸々売ったら2万か・・・」 

明後日まで大学は休みだし、手こずるような課題やレポートはない。 
せっかく手に入れた特典だ。試してみよう。 

(10時間、売却) 


・・・ 


「・・・様、只今口座から10時間が売却され、5000円に換金されました」 


財布を確かめると、1000円札だらけの俺の財布に5000円札が1枚増えている。 
透かしもきちんと入っている。 
どうやら本当に換金ができるようだ。 

 



97: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:55:31.77 ID:wzot/hv40

最近少し生活が苦しかっただけに、これは嬉しい。 
あの日銀行に寄って本当によかった。 
こんないいものを知らない人間は人生を損している。 

この時、腹の底から笑いがこみあげ、世界を手に入れたかのような錯覚に陥っていた。 

 



100: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:56:23.30 ID:wzot/hv40

友也「おいおい良いのかよほんとに」 

男「いいんだよ、今日は俺のおごりな!」 

友也「マジでー!」 

男「最近心配かけて悪かったな、今夜は何でも頼んでいいぞー!」 

友介「無理してんじゃねえのか~」 

男「そんなことないって!今までのお礼とお詫びも兼ねてんだよ」 

友也「じゃあお言葉に甘えて・・・俺はリブロースステーキ~!!」 

友子「だったら私はー、フルーツの盛り合わせー!」 


(足りなくなったら、また売ればいいんだ。) 

(時給950円なんてばかばかしすぎるよな、一瞬で日給2万だもん) 

(この通帳さえあれば俺は金と時間を自由に操れるんだ) 

 



103: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:58:20.59 ID:wzot/hv40

数日後、バイトをやめた。 
安い時給で肉体労働でこき使われるバイトより、 
一瞬のめまいから復帰すれば2万が財布に入っていることのほうが、 
常時金欠気味の大学生にとっては魅力的だったからだ。 

大学と家の往復で、それ以外の余計な時間があればそれを全部貯蓄に回し、 
24時間溜めたら一気に売るというサイクルを繰り返していた。 

 



105: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)17:59:32.62 ID:wzot/hv40

待ち合わせ時間になっても相手が来ない? 
立ちっぱなしは疲れる? 
いつまで待てばいいのか分からない? 

そんな時は一瞬目をつぶって念じれば。 


友也「はあっ、はあっ・・・ごめん・・・!待った?」 

男「いや?全然"待ってないよ"」 


この通り。 

 



106: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)18:00:08.66 ID:wzot/hv40

友介「悪い!金貸してくれ!」 

男「しょうがねーな~。ほらよ」 

友介「あざーっす!!」 

友介「やっぱりこういう時には頼りになるよ!ありがとな!今度返すよ!」 


(足りなくなったら、また、売ればいい) 

(俺は無限に金を生み出せるから心配なんていらない) 

 



107: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)18:00:52.66 ID:wzot/hv40

派手な出し入れで次の通帳に行くのには時間はかからなかった。 
俺は軽い足取りで銀行へと向かった。 

行員「いらっしゃいませ」 

男「一杯になったんで通帳の更新お願いします」 

行員「かしこまりました。・・・これで5冊目ですね。」 

男「はい」 

行員「今日から購入の取引が可能となりました。詳しくはこちらの冊子にありますのでどうぞ」 

男「ありがとうございます」 

 



108: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)18:01:28.14 ID:wzot/hv40

男「えーと?・・・"購入は他の取引と同様の手段で行えるが、購入の取引は売却取引の際の換金レートの10倍"・・・」 

男「え・・・じゅ、十倍??!!!」 

行員「はい。その通りでございます」 

男「10倍って・・高すぎませんか?・・・24時間で・・・20万・・・!?」 

行員「もちろん、購入の取引は権利であって義務ではありません。 
計画的なご利用を心掛けていれば、その取引も必要ありませんよ」 

男「そう・・・ですね・・・」 

 



110: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)18:02:00.56 ID:wzot/hv40

購入手続きは売却とほぼ同じだが、交換レートが売却のレートの10倍。 
24時間を買おうとしたら20万円もかかる。 
足元見やがって、ふざけんな! 

計画的に使ってればいいんだろ。ケイカクテキにやりゃ。 

道端の小石を蹴りながら家へと向かい、 
玄関を開けると近くにカバンを投げ捨て、そのままベッドに横になった。 

 



114: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)18:03:25.69 ID:wzot/hv40

とうとう明日から夏休みが来る。 
俺が入っているサークルは人数が少なく、 
半ば開店休業みたいなところがある。 
来たければいつでも、と言うスタンスで、 
皆勤しても、全部休んでもどっちでもいい。 

俺にとっては待ちかねた夏休みだ。 

俺はこの夏休みを、貯蓄と、売却に回す。 

 



115: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)18:04:42.86 ID:wzot/hv40

一瞬のめまいで時空をそのまま越えるから、 
疲労や空腹などの肉体的ストレスはほぼない。 
以前に丸1日貯蓄したこともあるので、それは身をもって分かっている。 

貯蓄の途中で友人や家族に心配されないように、あらかじめ夏休み中は旅行に行くと伝えた。 
そして夏休みを利用して、次の9月の最初の授業が始まる4時間32分14秒前までの時間をすべて貯蓄に回した。 

 



117: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)18:06:40.09 ID:wzot/hv40

男「さすがに1か月半まとめてやるとなんとなく違和感があるな・・・」 

開いたケータイの9月2日と言う表示を見ながら、 
首をコキコキ鳴らし大きなため息をつく。 

一か月半前、大学から帰った後すぐに貯蓄したから食事がまだだった。 
腹が減ったことに気付いたので、この1分でパンパンに膨らんだ財布を手に、 
早朝4時過ぎの薄明りの街の中、近くのコンビニに買い出しに向かう。 

 



120: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)18:07:52.99 ID:wzot/hv40

男「」 

A「なあなあ」 

男「はい。・・・ごふうっっっ!!!???」 

コンビニへと向かう道の途中で後ろから呼びかけられ、 
その振り向きざまに誰かに腹を思い切りど突かれた。 
強烈な痛みが広がり、一瞬で息が出来なくなる。 

男「うぅ・・・・っっ・・・・くっ・・・ふっ・・・ぅ・・・・」 

A「なあなあ、ちょっと金貸してくれよ」 

男「ふ・・・・っ・・・・はっ・・・・・はぁ・・・・・はぁっ・・・!!!」 


息をしようとすると激痛に襲われる。 
しかし死にたくない一心で微量であっても空気を吸おうとした。 

 



121: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)18:08:39.93 ID:wzot/hv40

B「俺達も手荒な事したくないからさー、黙って財布渡せよ」 

男「い・・・・っ・・・・・・や・・・・・だ・・・・っ・・・・」 

C「えー?何言ってるか全然聞こえないんですけどーー???」 

呼吸するのに精一杯で言葉が口から出ない。 
今できるのは、必死の表情で相手の顔をにらみつけることだけだった。 

 



123: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)18:09:34.95 ID:wzot/hv40

C「断らないってことはー、多分いいってことっしょ!じゃあこれはもーらいーー!!!」 

男「・・・っ!!」 

C「・・・うわwwwこいつめっちゃ金持ってるぜwwww」 

B「おいおいマジかよwwww」 

A「お前こんな大金もって歩いてたら変な人に襲われちゃうよー?」 

C「変な人に襲われないように俺たちが預かっといてやるよww」 

B「俺達最高じゃんwwめっちゃ人助けしてんじゃんwww」 

C「じゃーこの金は全部使い切ってから返してやるからそれまで待ってなww兄ちゃんwwww」 

A「せいぜい変な人に襲われないように気を付けて帰れよーーwwww」 

ABC「じゃーなーwww」 


高笑いしながら男たちは財布を奪い、走って行った。 

 



126: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)18:11:02.95 ID:wzot/hv40

不運にも、ATMのカードと手持ちの金をごっそり全部持っていかれた。 
コンビニで買い物をしたついでにATMに預けようとしたのが見事なまでに裏目に出てしまった。 

貯蓄する時、一括で売却すると高値で売れるという仕組みを利用し、 
通帳の時間と合わせて24時間の倍数にするために、 
授業開始の4時間32分14秒前までという半端な時間を狙って設定した。 
結果、残高はちょうど24時間の倍数になり、ここで得た時間とこれまでに貯蓄していた時間は全部売却。 

今、売却で得た金と生活費その他ひっくるめた、いわば金だけじゃない全財産を奪われたのだ。 

 



129: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)18:11:59.92 ID:wzot/hv40

財布には定期をはじめ、あらゆるカードが入っていた。 
ここで財布を取られると目の前の飯にすらありつけなくなる。 

激痛の残る腹を押さえながら男たちの後を追ったが、 
大通りに出たところで完全に姿を見失った。 

 



133: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)18:13:17.24 ID:wzot/hv40

全財産を失い、通帳の残り時間は0秒。 
換金しようにもその時間がない。 
もし1分あっても1円しか手に入らない。 

しかも今日は家賃の支払期日だ。 
最低でも大学までの往復の切符代と家賃・朝昼食代で6万円は必要になる。 

6万円――。 

時間にして丸3日分の値段となる。 

徒歩での通学時間や朝昼の食事時間、支度やその他で削がれ、 
今からだとどんなに多く見積もっても2時間しか時間がない。 

たったの600円では到底足りない。 

 



135: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)18:14:25.10 ID:wzot/hv40

男「・・・」 

男「・・・っ!!」 

(3日分の時間を借り入れし、その時間を、売却) 


「・・・様、3日分、72時間の借り入れと売却が完了しました」 


さっきまで何もなかったポケットには、6万円が入っている。 
金を手にした安堵と、借り入れに手を出した後悔が胸の中で渦巻く。 

 



136: 以下、名無しにかわりまして陽気なVIPがお送りします 2013/06/20(木)18:15:27.75 ID:wzot/hv40

東の空がだんだん明るくなってきた。 

殴られた腹が痛むが、それはもう問題ではない。 
コンビニには寄らず、家へと真っ直ぐに引き返した。